スタッド溶接ガンとは?仕組みやメリット・デメリットを解説

建築現場や自動車のボディ、液化天然ガス貯蔵タンク等の溶接など様々な現場で活用されているスタッド溶接ガン。 他の溶接方法に比べ、素早く効率的に作業できるのがスタッド溶接ガンの魅力ですが、「どんな仕組みで溶接さ […]
建築現場や自動車のボディ、液化天然ガス貯蔵タンク等の溶接など様々な現場で活用されているスタッド溶接ガン。
他の溶接方法に比べ、素早く効率的に作業できるのがスタッド溶接ガンの魅力ですが、「どんな仕組みで溶接されているのか?」と疑問に思いますよね。
本記事ではスタッド溶接ガンの基礎知識や操作手順、メリットやデメリットを詳しく解説しています。
すでに現場で使っている方も、これから操作を勉強していく方も、改めてスタッド溶接ガンについて学ぶきっかけになればと思います。
目次
スタッド溶接ガンとは?
引用元:Pixabay
まず「スタッド溶接」とは、スタッドと呼ばれるボルトやナットを瞬時に金属板に溶接する作業のことを指します。
スタッド溶接ガンはそれに使われる工具のことで、銃型の本体にスタッドをセットし、トリガーを引くことで初心者でも比較的簡単に溶接できるのが特徴です。
大きさは大小様々で、ネット通販などで買える家庭用のものから、ボルト数の高い業務用のものまで様々です。
スタッド溶接の種類
ちなみに、スタッド溶接には次にあげる4つの方式があります。
方式 | 概要 |
---|---|
電力アーク方式 | 直流電流を使ったスタッド溶接方法。
フェルール(※)と呼ばれる筒内で母材とスタッドの間に電流を流すことで溶接する。 |
ショートサイクル方式 | 原理は電力アーク方式と同じ。
フェルールを必要とせず、より短時間で溶接を行うことができる。 |
コンデンサ方式 | 電荷を蓄えることができる「コンデンサ」を通して、母材とスタッドの間に瞬間的に放電を行い、溶接する。 |
ガスシールド方式 | シールドておく酢を噴射しながら溶接を行う方法。 |
中でも「電力アーク方式」は多くの企業で使われている代表的な手法。
その他の手法も、この電力アーク方式を基礎原理として行われています。
※)フェルール(セラミックフェルール)とは、アーク発生中に空気を遮断して溶接する金属と空気の反応を防ぐためのもの。熱を集中させ、緩やかに冷却を行う効果もある。
スタッド溶接ガンの仕組みと操作手順
では次に、スタッド溶接ガンの基礎的な仕組みと操作手順を解説していきます。
- スタッド溶接ガンの基本設定を行う
- スタッドを溶接ガンに取り付ける
- 母材にアースをつなげる
- スタッドと母材を密着させて電流を流す
- アークが発生してスタッドが融解・凝固して接着される
電力アーク方式によるスタッド溶接は、フェルールの中でアーク(気体放電現象の一種)が発生し、材料を融解・凝固させることで行われます。
先ほども紹介したとおり、スタッド溶接にはいくつかの方式がありますが、多くはこの電力アーク方式を基準として行われています。
スタッド溶接ガンの操作は難しい?注意点は?
スタッド溶接ガンの操作は、材料(スタッド)をセットしてスイッチを押すだけなので、あらかじめ機械の設定さえ完了していれば操作の難易度は低いです。
むしろ作業員の腕に左右されず、比較的どんな人でも同じ品質を維持することが可能になるので、実技経験が少ない方も数回の練習で使いこなせるようになるでしょう。
ちなみに、作業時はアークが発生するので、トリガーを引いた時に火花のようなものが一瞬見える場合があります。
また、濡れた手や素手での作業は事故を引き起こす原因になり得るのでご注意ください。
事故を防ぐためにも、作業着や必要に応じて防護マスク等を着用し、万が一のために2人以上で作業することをおすすめします。
スタッド溶接ガンの操作に資格は必要?
スタッド溶接ガンの操作には、一般社団法人スタッド協会が発行する「スタッド溶接技術証明書」が必要です。
下記の通り、取得する資格の種別によって作業範囲が異なるので、ご自身の行う作業に合わせて必要な資格を取得しましょう。
級 | 種別 | 作業範囲 |
基本級(下向) | A級 | スタッド軸径22mm以下の下向き溶接 |
専門級(全姿勢) | B級 | スタッド軸径16mm以下の横向き溶接 |
スタッド軸径16mm以下の上向き溶接 | ||
スタッド軸径16mm以下の下向き溶接 | ||
専門級(太径) | F級 | スタッド軸径25mm以下の下向き溶接 |
資格取得試験は、学科試験と実技試験に分かれています。
取得後の有効期間は資格認定の翌月1日から3年間となっており、継続手続きを行えばさらに3年間延長可能。
6年目以降も引き続き資格を保持するには、更新試験が必要になるので注意しましょう。
試験の日程や受講費用に関する詳細は「一般社団法人スタッド協会」のホームページを参考にしてください。
スタッド溶接ガンのメリットとデメリット
引用元:Pixabay
資格があれば比較的取り扱いやすいスタッド溶接ガンですが、メリットがあればもちろんデメリットも存在します。
これからスタッド溶接を行う現場や母材に合わせて最適な方法を選択できるよう、実際に使われている分野の事例も紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
スタッド溶接ガンのメリット
スタッド溶接ガンは、他の溶接方法に比べると溶接にかかる時間が圧倒的に短いのが特徴。よって、短時間で効率的な溶接作業が可能となります。
瞬時に溶接ができるので母材への影響が少なく、母材が溶けたり、穴が空いたりといった失敗も減らせます。
また、「短時間で作業できる=量産できる」ということなので、生産性が高く、少ない人材でより多くのものを作りたいという現場にも向いています。
スタッド溶接はものの強度を高める・歪みを抑えるといった効果があり、ジャンルを問わず様々な現場で利用しやすいのが大きなメリットです。
スタッド溶接ガンのデメリット
一方で、スタッド溶接ガンには溶接できない箇所があったり、溶接後の正確な検査方法がないというデメリットもあります。
スタッド溶接ガンは溶接できる位置に制限があるため、設置不可能な場合は溶接箇所をずらすか、他の溶接方法で代用する必要があります。
また、一般的に溶接後は規定に基づいた表面と内部の検査を行うのですが、スタッド溶接ガンで溶接を行った場合、検査の規定がありません。
そのため、検査は目視による簡易的なものになり、欠陥や溶接が剥がれるリスクもあります。
スタッド溶接ガンによる溶接が剥がれる原因としては、母材そのものの歪みや、油・ゴミの付着などが考えられます。
また、本体の動作状態によっても溶接不備の原因となりますので、設定は常に見直す必要があります。
スタッド溶接ガンが活用されている分野は?
参考までに、実際にスタッド溶接ガンが活用されている分野の一部を紹介します。
- 精密機器の製造
- 板金加工
- 土木建築の現場
- 橋梁
- 築炉
- 自動車のボディ
- 液化天然ガスの貯蔵タンク
このように、スタッド溶接ガンはメリットだけでなくデメリットも存在するものの、利用目的に合わせて多くの現場で使われています。
まとめ
引用元:Pixabay
今回はスタッド溶接ガンの基礎知識や操作手順、メリットやデメリットを解説しました。
- 「スタッド溶接ガン」は溶接に使われる工具のこと
- 銃型の本体にスタッドをセットし、トリガーを引くことで溶接できる
- スタッド溶接にはいくつか方式があり、中でも「電力アーク方式」が代表的
- 操作は材料をセットしてスイッチを押すだけなので使用難易度は低い
- スタッド溶接ガンの操作には「スタッド溶接技術証明書」が必要
- スタッド溶接ガンは利用目的に合わせて様々な現場で使われている
スタッド溶接ガンは様々な分野で活用されている技術で、初心者にも比較的簡単に扱いやすいものであることがお分かり頂けたでしょうか?
スタッド溶接ガンは主に歪みをあまり出したくない場面で使われることが多いのですが、それでも利用方法に合わせた溶接方法は都度探っていく必要があります。
スタッド溶接ガンの良さ、他の溶接方法の良さ、それぞれの特徴を踏まえて最適な溶接方法を模索していきましょう。